• 田井の目

コロナで地価は下がらない? ~株の回復に潜むワナ~

新型コロナウイルの感染拡大により、非常事態宣言が発出され、 2020年4-6月期の実質GDP改定値は年率換算で28.1%減という未曽有の経済危機となりました。そして9月に入ってもなかなか収束の兆しが見えず、観光業や飲食業を中心に様々な仕事をしている人がなんとか政府からの補助金等を活用し糊口を凌いでいる状態であります。

そのような状況にありながら、なぜか日経平均株価は3月25日にオリンピックの延期発表の9日前の16日に終値で16,552円の最安値となりましたが、その後は4月7日から5月25日まで出された緊急事態宣言下でも徐々に上がり、9月には2万3千円台と、年初と変わらない水準に“回復”しました。

ただその中身をよく見ると、2/3の企業は下落したままなのですが、コロナでも売り上げが落ちないというか、コロナによってむしろ需要が増大した特定の産業の株価が急激に値上がりしたため、“平均値”として同じになったというのが実態のようです。

このように、売り上げの変化がいわゆる勝ち組と負け組に大きく分かれているような状態では、データの集合体が正規分布ではないので平均値は意味をなしません。たまたま過去と数字的に同じになったというだけで、元に戻ったわけでなく、以前とは比較にならないほど大きく変わったと考えるべきだと思います。

このように平均値で推移をみるのは不動産市場も同じで、土地価格、マンション価格、空室率もすべて過去の平均値を比較して、市場が良くなったとか、悪くなったとかを判断します。

そして土地の分譲価格やマンション価格、そしてオフィスの空室率も思ったよりも下落がないので、「不動産市場はコロナによって影響を受けない」という指摘もあります。

たしかに不動産の特性として、特に住宅の場合では人が住み続ける限り不動産を利用し続けるので、コロナを原因として需要が消滅することはありません。そしてテレワークによる住宅の移転需要が増大し、むしろ郊外の土地の取引が活性化したという指摘もあります。

しかし、大半の企業の業績が悪化し、従業員の賃金や雇用の維持が難しいという実情を考えると、ほんの一部のコロナに対応できている人や企業が不動産市場を引っ張り、たまたま平均値を維持しているようにしか思えないのです。

コロナが発生する以前にも地方と都心、または一等地とそれ以外の土地などの、地価の二極化はよく指摘されていましたが、その差はコロナでさらに進んでしまいました。そして不動産は株などに比べ流通性が低く、需要がある場所に商品を移動させ、生産を調整することができないという特性を持っているので、株式よりも市場のゆがみが著しいと考えます。その結果、もはや同じ平面上の極面の違いというより、次元の違いまで進行したように思われます。

9月に発表される地価調査などの公的評価では、あくまでも平均値で前期との変化を比較しますし、不動産市場の影響は株価の変動よりも遅れて起きるといわれ、さらに直近では感染者数も減少傾向なことから、「コロナに地価は影響ないのでは?」とお考えになる方も多いとは思います。しかし過去とは違うその中身の違いに注意してご自身の不動産購入や投資判断をする必要があると思います。

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